おぢやの伝説

十八沢と赤池

かしのお話です。
信濃川の絶壁の上から越後平野の一部が見渡せる地に、内ヶ巻城がありました。そこの家来に「鬼市右エ門」と異名をもつ、大渕市右エ門という武将がいました。この城は廃城となっていましたが、市右エ門はこの地に残り、冬井でお百姓さんになりました。
それから十数年がすぎました。鬼市右エ門といわれた大渕市右エ門の生活は、すっかりお百姓さんになりきって、娘の八枝も美しく成長し、川井はもちろん岩沢、真人から小千谷のもその美しさは聞こえていました。
そのころ、冬井には大きな沼がありました。その周囲には深い杉林があり昼でも暗く、昔から沼の主に大蛇がすんでいるといって、村人たちは誰も近よろうとはしませんでした。
ある日八枝は薪をとりに一人で山に入り、この沼のほとりに出てしまいました。池の周囲には美しい名も知らぬ花が咲きみだれていました。八枝はあまりの美しさにウットリと見とれ、うっかり時をすごしてしまいました。すると沼の水が見る見る荒れ出して、突然狂ったように大波がザーッと襲いかかり、八枝をのみこもうとしました。その大波の中に美青年がいて、ジーッと八枝を見ていたのでした。八枝は家へ逃げ帰り、市右エ門にそのことを聞かせると、
「それが沼の主かもしれない。これに見込まれたら大変だ。もう沼に行ってはいけないよ。」
といい聞かせました。
それから三、四日たったある日のこと、大渕家の玄関に一人の青年が立ち名も告げずに、
「まかり越した要件は、失礼ながら御息女八枝殿を拙者の嫁にほしい。」
ときりだしました。市右エ門は驚きましたが、家にあげて名前を聞きました。しかしいわないので、遠まわしに断りました。
「また出なおして参りますから、その時までお考えおききださい。」
と帰って行きました。青年が去ったあとは外が晴天にも関わらず、ビッショリとぬれていました。市右エ門は
「ウム、あれこそ沼の主の大蛇の化身に違いない。娘は大蛇に見込まれたのだ。」
と一時は嘆きましたが、そこはかつての豪勇をもってならした鬼市右エ門です。「また出なおす」といった若者の言葉を思い出し、昔戦場で使った愛刀をとり出し、さらに娘八枝を家の奥まった部屋に移し、大蛇の化身の来るのを待ちました。
それから五日目の夜です。星が輝いていたのが大豪雨となりました。そして周囲はまっくらになりました。市右エ門は八枝が心配になり、奥の部屋にかけつけました。しかし八枝のすがたはすでになく、例の青年の声が、
「市右エ門よ、われは沼の主なり。娘の八枝殿は今こそ拙者が嫁御に貰い受けた。」
といいました。市右エ門は声をかぎりに、
「おのれ蛇身の分際で人間に懸想するとはなにごとだッ。姿を現せ、娘を返せ。」
と愛刀を振りながら沼のほとりまで無我夢中で来ました。髪は乱れ、目は血ばしり、かつての戦場での勇姿さながらに、可愛い娘救いたさ一念、あらん限りの努力をふりしぼりました。もう彼の目には、地上も水中もありません。身をおどらせて沼にとびこみ、水中にもぐり、そして浮び上がり、姿なき蛇身を追いました。そして見事に勝ちました。大蛇のものすごい叫びとともに沼は大蛇の血で真赤に染まり、ついに本性を現し水面に頭を出してのたうちまわったとみるや、再びものすごい音とともに沼から逃げ出しました。その時の姿は頭が十八、胴体は一つ、満身傷だらけになって信濃川をつたって郡殿の池に逃げ去ったのです。付近はまた平和な村になりました。
今でも村人は大蛇の血で真赤になった沼を赤池と呼び、十八の頭をふりたたて逃げた沢を十八沢と呼んでいます。また、その時の刀は、冬井の大渕家に残っているそうです。

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